老舗和菓子店のM&A成功事例 – 伝統と革新の融合で新たな飛躍へ
T社は、1950年代に創業された老舗和菓子店です。長年にわたり、独自の商品企画力と有力な販路を活かし、特に空港でのお土産品販売を中心に事業を展開してきました。しかし、事業承継の課題に直面しM&Aを模索していました。今回、T社の元オーナー様にM&Aの経緯や思いについてお話を伺いました。
M&Aを決断した理由
元オーナー様: 当社は創業以来、和菓子の伝統を守りながらも、時代のニーズに合わせた商品開発を行ってきました。特に空港での販売は、インバウンド需要の増加もあり、好調を維持していました。しかし、私も寄る年波には勝てず気力体力の衰えが目につくようになってきました。また、私たち夫婦には子供がいなかったため、会社や従業員の将来を考えたとき、適切な後継者が見つからないという課題に直面していました。
当初は廃業も選択肢に入っていたのですが、事業承継について学ぶ機会があり、初めてM&Aという選択肢があることを知り、興味をもちました。特に、当社の強みである商品企画力と販路を活かしつつ、他社の営業力や製造力を掛け合わせることで、自社のさらなる成長可能性を見出せることに魅力を感じました。
M&Aの経過と漠然とした不安
元オーナー様: M&Aの各ステップは、私にとって全く未知の体験でした。最初は不安も大きかったですね。私は古い人間なので、「身売り」や「のっとり」なんて言葉が頭をよぎることもありました。特に、古くからの従業員や取引先からなんて思われるのだろうかという点は不安でしたし、会社が長年築き上げてきたブランドや商品はそのまま継続されるのだろうか、なんて心配をしていました。
しかし、今回サポートしていただいたみつきコンサルティングさんのM&Aアドバイザーの方々が丁寧に何度も説明してくれたおかげで、徐々に理解を深めることができました。私も高齢でしたし、何度も同じことを聞いてしまっていたのですが、彼らは辛抱強く私の懸念を受け止め真摯に対応してくれました。
今回、このM&Aが成功した一番の要因は、彼らの辛抱強さだったと今では思っています。
買い手との出会いと交渉
元オーナー様: S社との出会いは、今から思い返すと運命的だったのかもしれません。彼らは老舗の和菓子メーカーで、当社の商品企画力と販路に強い関心を示してくれました。特に、国内での販路拡大を目指していたS社にとって、当社の空港販売のノウハウは非常に魅力的だったようです。
交渉の過程では様々議論を行いました。どうしたらお互いの強みを活かせるのか?逆に互いの課題をどうやったら補完できるのか?など、このM&Aによって生み出される相乗効果について話し合いました。その過程で見えてきたS社経営陣の誠実な姿勢と、私たちが行ってきたことに対する真摯な態度に対し、次第に大きな信頼感を覚えるようになりました。
また、条件面についても配慮いただき、当初の想定に近い、満足いくものをご提示いただきました。
従業員への配慮
元オーナー様: 従業員への対応は最も気を遣いました。長年一緒に働いてきた仲間たちの雇用と待遇が守られることが最大の要望でしたし、彼らにもこのM&Aの意義を理解してほしいと考えていました。
S社は、この点についてもとても真摯な対応をしてくれました。彼らは従業員の知識と経験を高く評価し、全員の継続雇用と待遇を守ることを約束してくれたのです。さらに、従業員との面談の機会を設け、直接コミュニケーションを取ることで、彼らが抱いていた漠然とした不安感を解消する努力も率先して行ってくれました。
取引先との関係維持
元オーナー様: 長年の取引先との関係維持も重要な課題でした。特に、空港の販売店や原材料の仕入れ先との関係は、当社の事業のキモです。
S社は、これら取引先との関係を尊重し、可能な限り現状を維持する方針を示してくれました。また、必要に応じて私と同行してS社自らが取引先への説明を行う機会を設け、取引先の不安感も解消してくれました。このような丁寧な対応により、M&A後もスムーズな事業継続がなされ、多くの取引先から理解を得ることができました。
ブランドと商品の継続
元オーナー様: 当社が長年かけて築き上げてきたブランドと商品ラインナップを本当に継続してくれるのだろうかという点も大きな懸念事項でした。幸いなことに、S社は当社のブランド価値を十分に理解し、むしろS社の販売力を活かし、より拡大させる方針を取ってくれました。
具体的には、既存の人気商品はそのまま継続し、さらにS社の製造技術と当社の企画力を組み合わせた既存ブランドの新ラインの開発にも意欲的に取り組んでくれています。この取り組みは私の想いとも合致し、安心して事業を託すことができた大きな要因です。
デューデリジェンスの経験
元オーナー様: デューデリジェンス(DD)は、生まれて初めての経験でしたので緊張しましたね。しかし、みつきコンサルティングさんと当社の顧問税理士が事前によく相談し、必要な資料を準備していただいたおかげで、スムーズに進めることができたんじゃないでしょうか。
DDを通じて、いままで自分たちでは気づいていなかった自社の強みと課題を客観的に見つめ直す良い機会にもなりました。ある意味井の中の蛙になっていた自分たちに対し、別のものの見方を教えてくれた経験でした。
私たちは良くも悪くもワンマン中小企業でした。私が右といえば右でしたし、白いものも黒といえば黒でした。そんな中、組織として動くこととはどういうことなのか、そのために何が必要なのかということを、従業員たちはDDを通じて感じてくれたんじゃないでしょうか。
また、S社の担当者も丁寧かつ誠実な態度で接してくれたため、DDの過程を通じてさらに両社の信頼関係を深めることができたと感じています。
価格交渉と条件設定
元オーナー様: 最終的な譲渡価格の交渉は、正直に話をすると難しい局面もありました。特に私の役員退職慰労金の取り扱いについて双方の認識の相違があり、調整が必要でした。
しかし、みつきコンサルティングさんが丁寧にサポートいただき、最終的には双方が納得できる条件で合意することができました。互いが歩み寄ることで成約に向けた一体感を醸成することができましたし、より大きな信頼につながったと思います。
また、M&A後の取締役の構成については、私のわがままを聞いていただき本当に感謝しています。
決済までの道のり
元オーナー様: 最終決済に向けて、いくつかの問題は発生しましたが、互いが歩み寄ることで大きな問題に発展することなく恙なく進行することができました。ただ、クロージングの時期については私どもの要望により、当初の想定よりも遅れが生じてしまいました。S社側に柔軟に対応していただき感謝していますが、今考えると反省すべきところでした。
クロージング当日は、金融機関のトラブルから予想外に時間がかかってしまいましたが、関係者全員の協力のおかげで無事に完了することができました。振り返ってみると、M&Aというのは想定外のことが起きるものなのだなという実感がわいてきます。
M&A後の変化
元オーナー様: M&A完了後、予想以上の相乗効果が生まれています。S社の製造技術と当社の商品企画力が融合し、新たな商品ラインナップが生まれました。特に、S社の全国的な販売網を活用することで、これまで以上に幅広い顧客層にアプローチできるようになりました。
従業員たちも、新しい環境に順応し、むしろ意欲的に仕事に取り組んでいる様子を見て安心しています。S社の研修制度や福利厚生も当社に導入され、従業員のモチベーション向上につながっているようです。
事業の発展と将来展望
元オーナー様: M&A後、当社の事業は伸長しています。特に、インバウンド需要の回復に伴い、空港での販売が再び活況を呈しています。S社のバックアップにより、商品の安定供給体制が整い、更なる販路拡大も視野に入りつつあります。
今後は、海外展開も考えてらっしゃるようです。S社の海外販売ネットワークを活用し、日本の伝統的な和菓子の魅力を世界に発信していく計画です。私自身も、商品企画アドバイザーとして新しいプロジェクトに関わっており、とてもワクワクしています。
M&Aを検討している経営者へのメッセージ
元オーナー様: M&Aは、決して簡単な選択ではありません。しかし、適切なパートナーと出会えれば、自社の成長につながることは間違いありません。私の経験から言うとすると、以下の点に注意を払って進めてほしいですね。
- 自社の強みと課題を客観的に分析すること
- 従業員や取引先への配慮を忘れないこと
- 相手企業との価値観の共有を重視すること
- 専門家のアドバイスを積極的に活用すること
- 長期的な視点で事業の発展を考えること
特に3.は重要だと思っています。
M&Aといえど、人と人とのお付き合いの中から生まれてくるものです。自社を大切に思うことも大切ですが、以下に相手を尊重できるのか。この点を今回のM&Aを通じてS社に教えてもらったと感じています。
M&Aは、単なる事業の売却ではなく、新たな成長の機会だと捉えることが大切です。慎重に、しかし前向きに検討していただければなと思います。
おわりに
元オーナー様: M&Aを通じて、当社の伝統と技術が新たな形で継承され、さらなる発展を遂げていることを大変嬉しく思います。この経験は、私自身にとっても大きな学びとなりました。
最後に、このプロセスを支えてくれたM&Aアドバイザーの方々、S社の皆様、そして長年当社を支えてくれた従業員や取引先の皆様に心からの感謝を申し上げたいと思います。今後も、日本の和菓子文化の発展に、微力ながら貢献していきたいと考えています。