飲食業のM&A事例 【神奈川】

飲食チェーン株式の譲渡を助言|おくうさま

譲渡企業 株式会社おくう
業種 飲食業
事業内容 焼肉店5店舗、モスFC4店舗の運営
売上 12億円
地域 神奈川
設立 2001年
経営者の年齢
譲渡理由 後継者不在
譲受企業 株式会社パスポート
業種 飲食業
事業内容 業務スーパー・精肉店の運営、 居酒屋FCの運営
売上 462億円(連結)
地域 神奈川
設立 2020年
上場の有無 非上場
譲受目的 顧客層の拡充

焼肉店の事業承継 – M&Aで新たな未来を切り拓く

 

はじめに

今回、横浜市に本社を置く焼肉店チェーンO社の事業承継についてお話を伺いました。O社は長年にわたり地域に根差した焼肉店を展開してきましたが、後継者不在の問題に直面し、M&Aによる事業承継を選択されました。今回のインタビューでは、O社の元オーナー様に、M&Aを決断するに至った経緯や、実際のプロセス、そして今後の展望についてお聞きしました。

 

 M&Aを検討するきっかけ

「当社は創業以来、神奈川県下を中心に焼肉店を展開してきました。お客様に喜んでいただける美味しい和牛を提供すること、高品質な和牛をリーズナブルな価格で提供することを使命とし、長年事業を続けてまいりました。しかし、ここ数年、事業承継について真剣に考えざるを得ない状況になっていたのです」と、元オーナー様は語り始めました。

O社の事業承継問題の背景には、ご家族の事情がありました。

「私には娘が一人おりますが、彼女はまだ若いですし、自分の好きな別の道を歩んでほしいと考えていました。また、創業以来二人三脚で事業を切り盛ってきた妻が体調を崩し、以前のように業務をこなすことが難しくなったこともあり、会社の行く末について真剣に考える必要に迫られるようになったのです」

元オーナー様は、このような状況下で会社の発展・存続と従業員の雇用を守るためには、M&Aが最適な選択肢であると判断されたそうです。

「私一人の力では限界がありました。会社を次の段階へと成長させるためには、新しい力が必要なんじゃないかなと考えました」

 

M&Aアドバイザーとの出会い

M&Aを検討し始めた元オーナー様は、まず顧問税理士からの紹介で大手仲介会社に相談されたそうです。

「大手仲介会社さんからのご提案をいただき、そちらで進めることも考えていました。しかし、その後、別のM&Aアドバイザーの方と出会う機会があり、物は試しで話を聞いてみようと思ったんです」

その出会いは、数年前のことでした。

「ホテルのラウンジで面談をしました。その際、そのアドバイザーさんは当社の状況をじっくりと聞いてくれ、また飲食業界の固有の事情についても深い知見を示してくださったことが印象的でした。これが、今回お世話になったみつきコンサルティングさんとの出会いでした。」

 

株式価値算定の重要性

M&Aを進める上で、会社の価値(株式価値=株価)をどのように算定するかは非常に重要な要素です。元オーナー様は、この点についてもお話しくださいました。

「今回は2社から株式価値算定の提示がありました。まず、大手仲介会社さんから提示がありましたが、みつきコンサルティングのアドバイザーの方からは、それよりも1億円以上高い金額を提示されたのです。これには正直驚きました」

その理由について、元オーナー様は次のように説明されました。

「飲食店の場合、ブランド力があり、ある程度の店舗数があれば、業績次第ではありますが、利益の5年分ものれん代がつく可能性があるそうなんです。これはある意味、当時の飲食業界の相場観のようなものなんだそうですが、大手仲介会社さんはこの点について考慮されてらっしゃらなかったみたいです」

この経験から、元オーナー様はM&Aアドバイザーの選択の重要性を痛感されたそうです。「適切な株式価値評価によって自社の真の姿を知ることができたと思います。それは単に高い金額を提示されたからというだけでなく、自社の事業や業界特性を深く理解してくれているアドバイザーがいかに重要かが分かりました」

 

実際のM&Aプロセス

元オーナー様とみつきコンサルティングはアドバイザリー契約を締結されました。

「(複数の仲介会社ともアドバイザー契約を締結できる)一般契約ではありましたが、進行する中で有利な条件を提示してくれる企業が出てくれば専任契約に移行してもいいな、という想いはもっていました」と元オーナー様は当時を振り返ります。

その後、みつきコンサルティングさんから複数の候補企業が紹介されました。そのうち、P社・R社・G社の3社が大きな関心を持たれたそうです。

「実はP社の社長さんとは直接の面識はなかったものの、同じ経営者の集まりに参加していたこともあり、一番親近感を覚えていました」

順次3社の方と面談を実施し、互いのカルチャーや目指す方向性を慎重に確認されたそうです。

「やはりM&Aは一度実行すると後戻りはできません。一生に一度のことでもありますし、必要であれば何度もお会いするなど慎重に慎重を期して考えました」

 

価格交渉と入札

具体的な価格交渉の段階に入りました。元オーナー様はみつきコンサルティングのアドバイザーと相談の上、以下の方針を決められました。

「下限価格は事前にアドバイザーさんと共有していましたがM&Aにおいては何が起こるか分かりません。最初から下限価格を提示することは行わずに、買い手に対しては競合がいること、また、バッファを持たせた下限価格を伝達することを行い、交渉に余裕を持たせることにしました。傍から見るととても戦略的に動くことができたように見えると思うのですが、実は、これは全てアドバイザーさんから言われたとおりにやったことなんです」

と元オーナー様は少し照れながら仰っていました。

「最終的には、3社での入札を実施することになりました。各社からシナジー効果も含めた意向表明書を提出してもらい、慎重に検討しP社を交渉相手とすることにしました」

 

デューデリジェンス(DD

P社によるデューデリジェンス(DD)が実施されました。しかし、ここで想定外の事態が発生します。

DDの際、P社側の人数が想定よりもはるかに多くなってしまいました。これには正直戸惑いました」と元オーナー様は当時を振り返ります。「また、中立な立場を保とうとしていたM&Aアドバイザーの対応も、結果的には買い手寄りに見えてしまったのです」

特に問題となったのは、買い手側の税理士による発言でした。

「役員退職慰労金を支給しない等の発言が出て、私たちとしては困惑しました。当時は初めてのことでストレスフルになっており、M&Aアドバイザーにはもっと売り手側の精神的フォローをしてほしかったというのが正直な気持ちでした」

このDDの過程で、経理担当である元オーナー様の奥様の体調が悪化するという事態も起こりました。「妻は以前の事故の影響もあり、元から体調が優れませんでした。そこにDDの負担がかかりより悪化してしまったようです。これは、私の精神面にも影響を与え、後々まで尾を引くことになりました」

 

株式譲渡契約書の締結に向けて

譲渡契約書の調整段階に入りました。ここでも新たな課題が浮上します。

「株式譲渡契約書の条文において、表明保証条項や競業避止義務について、今までの話と違うと感じられる表現がありました。また、買い手の真意を当時の私の弁護士が理解していなかったこともあり、より不信感を募らせてしまったというのが正直なところです。今から思えば、弁護士とM&Aアドバイザーとのリレーションが十分でなかったことに原因があったのですが、当時はそこまで頭が回らず、事前に弁護士をM&Aアドバイザーに紹介しておけば良かったなと後悔しています」と元オーナー様は振り返ります。

契約締結の前日までこの問題は尾を引きました。感情的なもつれも相まって、一時は契約締結が危ぶまれる事態となりました。

「一時は契約締結を破棄しようかとも考えましたが、最初から一緒に取り組んでくれたアドバイザーさんやその上司の方と腹を割ってお話しすることで、自分にも考えが至らない点があったことも理解しましたし、P社さんからのラブコールもあって何とか最終契約にこぎつけることができました」

 

クロージングとその後

ついにクロージング(最終契約締結/代金決済)の日を迎えました。

「クロージングについては、幸いにも滞りなくスムーズに進みました。ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでしたが、最後はホッとしました」と元オーナー様は安堵の表情を見せられました。

M&A成立後、O社はP社グループの一員となり、新たな船出を迎えることとなりました。「P社は和牛の仕入に関してのノウハウを持っています。彼らの知見を活かすことで、当社の事業がさらに発展していくことは間違いないと思っています」

従業員の反応についても、元オーナー様は前向きな印象を持たれたようです。

「もちろん、最初は不安の声もありました。しかし、P社の社長さんをはじめとした多くの方からP社の方針やビジョンを説明いただいたことで安心したようです。いまでは、多くの従業員が新しい環境にも慣れ今まで通り活躍していると聞いています」

 

M&Aを振り返って

M&Aのプロセスを経験された元オーナー様に、全体を通しての感想をお聞きしました。

「正直に言って、M&Aは想像以上に大変でした。特に、DDにおける想定外の出来事や、最終契約前の緊張感は、今でも鮮明に覚えています」

一方で、M&Aを選択したことへの後悔は一切ないとのことです。

「確かに大変でしたが、会社の将来を考えれば、これが最善の選択だったと今でも感じています。P社のお陰で、私がいなくなっても従業員の雇用を守り、お客様に美味しいお肉を提供できる体制を整えることができたんじゃないでしょうか」

M&Aアドバイザーも欠かせない存在であったおっしゃられました。

「アドバイザーの存在は欠かせないものでした。株式価値算定の段階から、交渉、DD、そして最終契約に至るまで、専門的な知識とサポートは必須だと思います。また、複数のメンバーで対応いただいたことで、異なる角度からのアドバイスをいただき、ピンチになっても乗り越えることができました」

 

M&A後の展開

M&A成立から数年が経過した現在、O社の事業はどのように変化しているのでしょうか。

P社グループの一員となったことで、メニュー開発や店舗運営のノウハウを共有し、お店のレベルが上がったと聞いています。また、仕入れのスケールメリットも活かせるようになり、より質の高い和牛を安定的に確保できているようです」と元オーナー様は語ります。

さらに、出店計画も順調に進んでいて、コロナを乗り越え既に複数店の出店が行われ、計画進行中のお店もいくつかあるそうです。

「神奈川県下を中心とした地域密着型の経営は継続しつつ、首都圏全域での店舗展開も視野に入れています。P社の仕入れ力と当社の強みを組み合わせることで、さらなる出店が可能なんじゃないでしょうか」

従業員の成長にも手応えを感じているそうです。

「私の後を任せたP社の責任者の方に聞いたのですが、O社の従業員もP社のグループの研修制度を活用することができるそうなんです。そこで従業員のスキルアップが図れていると聞いています。私の時はそこまで手が回らなかったのでありがたいお話ですよね」

 

おわりに

最後に、元オーナー様から、M&Aを検討している経営者へのメッセージをいただきました。

M&Aは大きな決断です。そりゃあ当然不安や迷いもあると思いますよ。しかし、会社の将来、従業員の未来、そしてお客様への責任を考えたとき、それが最善の選択肢となる場合もあります。うちの会社の場合はそうだったと思っています。やっぱり信頼できるアドバイザーと共に、しっかり準備をして慎重かつ戦略的にM&Aを進めていくことが重要なんだと思います」

「また、M&Aは単なる会社の売却ではありません。自分が築き上げてきた事業をさらに発展させる機会だと捉えることが大切です。やはり皆さん、会社や従業員のことをご自身の家族や子供のように考えられているかたも多いと思います。その大切な子供たちが新しいオーナーの下で成長していく姿を見るのは、言葉では表現できないほどの喜びがありますね」

O社の事例は、M&Aによる事業承継が、会社の新たな成長の契機となり得ることを示しているのではないでしょうか。適切な準備と戦略、そして信頼できるパートナーの存在が、成功への鍵となった事例でした。

 

           

この案件・類似案件の担当者

▷ 西尾 崇 事業法人第三部長


宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。

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