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タイ|配当の決議から支払いまでの法的要件と実務

(日本語)

タイの配当可能限度額について、法的要件や実務上の注意点を解説します。準備金の積立義務や源泉徴収の扱い、配当決議から支払いまでの流れなど、タイでの配当に関する重要な情報をまとめています。

タイの配当に関する法的枠組み

タイにおける配当の実施には、いくつかの法的要件を満たす必要があります。これらの要件を理解し、適切に対応することで、法令順守と円滑な配当実施が可能となります。

配当決議の方法

タイの非公開会社では、配当の実施に際して株主総会の決議が必要となります。ただし、臨時配当の場合には取締役会の決議でも可能です。この決議方法の柔軟性により、会社の状況に応じた機動的な利益還元が可能となっています。

配当可能額の計算基準

タイでは、配当時点で利益剰余金がプラスの状態であれば、原則として配当が可能です。これは、当期が赤字であっても、累積の繰越利益剰余金残高がプラスであれば配当が可能であることを意味します。この規定により、一時的な業績悪化時でも、長期的な財務状況に基づいた配当政策の実施が可能となっています。

法定準備金の積立要件

タイ民商法典1202条に基づき、配当を行う際には法定準備金の積立が必要です。具体的には、以下の要件を満たすまで、配当の都度、利益の1/20(5%)を準備金として積み立てる必要があります。

  • 登録資本の1/10の金額に達するまで
  • 付属定款で定められた額に達するまで

この法定準備金の積立は、会社の財務健全性を確保するための重要な要件となっています。

配当可能限度額の算出方法

配当可能限度額を正確に算出することは、適切な配当政策の実施と法令順守の両面で重要です。以下では、具体的な算出方法と注意点について説明します。

利益剰余金と現預金残高の確認

配当可能限度額の算出には、以下のステップが必要です:

  1. 決算日時点の利益剰余金の確認
  2. 配当実施時点での利益剰余金の確認
  3. 配当金額確定および現預金残高と今後の資金繰りの考慮

特に、実際の配当は現預金から行うため、単に会計上の利益剰余金だけでなく、実際の手元資金の状況も重要な判断要素となります。

準備金積立額の考慮

配当可能限度額を算出する際には、法定準備金の積立要件を考慮する必要があります。準備金へ繰り入れられるべき金額は、配当可能な金額から除外しなければなりません。

実務上、「利益」の定義が明確でないため、以下のいずれかの5%を準備金として積み立てるケースが多く見られます:

  • 当期利益の5%
  • 配当額の5%
  • 未処分利益の5%

保守的なアプローチとして、資本金の10%を先に積み立てる企業もあります。

具体的な計算例

配当可能限度額の計算例を、以下の条件で示します:

  • 資本金:1,000万THB(準備金積立要求上限額:100万THB)
  • 利益剰余金:84万THB
  • 準備金未積立の場合:
    • 配当可能額:80万THB
    • 準備金積立額:4万THB
  • 準備金が100万THB(資本金の10%)積立済みの場合:
    • 配当可能額:84万THB(全額配当可能)
    • 準備金積立額:0THB
  • 準備金が98万THB積立済みの場合:
    • 配当可能額:82万THB
    • 準備金積立額:2万THB

これらの例から、準備金の積立状況が配当可能額に大きく影響することがわかります。

配当に関する税務上の取り扱い

タイにおける配当の税務上の取り扱いは、配当を行う企業と受け取る株主の双方に影響を与えます。適切な税務処理を行うことで、効率的な利益還元が可能となります。

源泉徴収の適用

タイでは、配当に対して原則10%の源泉税が適用されます。例えば、配当額が100万THBの場合、10万THBをタイ歳入局へ申告・納税し、残りの90万THBを株主へ送金することになります。

ただし、以下の条件をすべて満たす場合には、配当に係る所得が免税となり、源泉税控除は必要ありません:

  1. 配当受領者がタイ国内の法人である
  2. 配当権利確定の前後6カ月間(前3か月、後3か月)、25%以上の議決権を保有
  3. 配当を受ける法人と支払う法人で相互に株式持ち合いをしていないこと

免税要件と益金不算入

配当を受け取る側の税務処理は、免税要件の適用有無により異なります:

  • 免税要件に該当する国内法人株主:
    • 受取配当金は法人税の確定申告において全額が益金不算入となります。
    • 収益としてなかったものとして、所得を減じる調整(減算)を行います。
  • 免税要件に該当しない国内法人株主:
    • 受取配当金の50%のみが益金不算入となります。
    • 源泉徴収された税額は、法人税から控除可能です。
  • 個人株主(参考):
    • 受取配当金は全額が課税対象となります。
    • 源泉徴収された税額は、確定申告時に控除可能です。

これらの税務上の取り扱いを理解し、適切に対応することで、効率的な資金運用と適正な税務申告が可能となります。

配当実行時の実務上の注意点

配当の実行にあたっては、法的要件を満たすだけでなく、実務上のさまざまな注意点があります。これらを適切に処理することで、円滑な配当の実施が可能となります。

支払期限の遵守

タイでは、配当の支払いに関して厳格な期限が設けられています。具体的には、以下の期限内に配当の支払いを完了する必要があります:

  • 株主総会決議の場合:決議から1か月以内
  • 中間配当の場合(臨時株主総会または取締役会決議):決議から1か月以内

この期限を遵守することで、法令順守と株主への迅速な利益還元が実現できます。

銀行への提出書類

配当金の送金を行う際、取り次ぎ商業銀行によって要求される書類が異なる場合がありますが、一般的に以下の資料の提出を求められることがあります:

  1. 株主総会または取締役決議の配当決議議事録
  2. 株主名簿
  3. 登記簿謄本
  4. その他銀行が求める書類

これらの書類を事前に準備しておくことで、円滑な送金手続きが可能となります。また、銀行によっては追加の書類や説明を求められる場合もあるため、余裕を持った対応が重要です。

まとめ

タイにおける配当可能限度額の計算と実行には、法的要件の遵守と実務上の注意点への対応が求められます。利益剰余金の確認、準備金の積立、税務上の取り扱い、支払期限の遵守など、多岐にわたる事項に注意を払う必要があります。適切な対応により、法令順守と効率的な利益還元の両立が可能となります。

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