足元では、2024年のM&A件数は過去最多となりました。今後、M&Aを検討する際には、M&Aの動向やトレンドについて知っておくことも重要です。本記事では、業界別に最新のM&Aの動向・トレンドについて解説します。
M&Aの長期的なトレンド
株式会社レコフの調査によると、1985年以降、日本企業のM&Aは増え続けています。リーマンショックや東日本大震災などに起因する、一時的な不況によって減少した時期もあるものの、M&Aの件数は年々増加しています。
特に、1993年から2006年までは、M&Aの増加が顕著な時期だったといえます。バブル経済の崩壊をきっかけとして、事業の存続や成長のためにM&Aを決断する企業が目立っていました。また、2017年以降は、M&Aの件数は年間3,000~4,000件程度で推移しています。2025年1月のレコフデータ調べによると、直近2024年(1月~12月)の日本企業のM&A件数は4,700件となり、過去最多を更新しています。
▷関連:M&Aとは何か?方法・価格・利点と欠点・流れを簡単に解説
M&A件数の動向が上向きな理由
M&A市場は、なぜトレンドが上向きになっているのでしょうか。ここでは、その理由について解説します。
後継者問題の深刻化
M&A市場が注目されるようになった背景には、後継者不足に悩む中小企業の増加があげられます。例えば、現在の経営者が高齢になり、引退しようとしても後継者がいないケースも多いのが現状です。たとえ経営者に子どもがいても、事業を継がないケースも少なくありません。東京商工リサーチの2024年「後継者不在率」調査によると、後継者不在率は全産業平均で62.15%に達しています。
そのような事情により、親族以外の第三者に事業を譲渡する事例が増加しています。有力な方法の1つとして、M&Aが頻繁に利用されるようになりました。大手企業だけではなく、中小企業も積極的にM&Aを実施しています。
▷関連:後継者不足と事業承継|経営者の平均年齢は?業績悪化・廃業も多い
大手企業の戦略的買収ニーズ
大手企業では、ビジネスモデルの見直しやデジタル・トランスフォーメーション(DX)に対応すべき差し迫ったニーズがあります。
また、海外進出のために、M&Aを活用する企業もあります。人口減少により、国内市場の縮小は加速すると考えられているため、海外進出も企業として生き残る選択肢の1つです。大手企業では、海外進出の風潮が特に強まっています。M&Aを利用すれば、海外向けの事業をゼロから作る必要はありません。買収した事業の知見や実績を活用できるため、海外進出をよりスムーズに進めやすくなります。
▷関連:買収とは|M&Aの目的・利点と欠点・手法・流れ・取得価額を解説
人材確保の手段
人口減少による人材不足を補うため、M&Aを通じて人材を獲得する企業が増えています。譲渡企業は、大手企業の傘下に入ることで、社会的信用力やブランドを活かした人材獲得が可能になります。
▷関連:なぜ人手不足が深刻になる?その理由と解決策、M&Aの可能性も解説
その他の増加理由
M&Aの増加トレンドの背景には、以下のような点も影響していると考えられます。
政府の支援策
政府は事業承継を円滑化するため、支援制度や税制優遇措置を導入しています。これにより、M&Aを活用した事業承継の経済的な負担が軽減され、多くの経営者がM&Aを検討しやすくなっています。
▷関連:M&Aに利用できる減税措置「経営資源集約化税制」の内容・適用要件
▷関連:事業承継・引継ぎ補助金とは?M&A補助金の種類・交付までの流れ
▷関連:事業再構築補助金と事業承継|M&Aでの利用・採択のポイントとは
事業承継・引継ぎ支援センターの支援強化
事業承継・引継ぎ支援センターが積極的に中小企業の相談を受け、M&A成約を促進しています。同センターの支援により、以前はM&Aに消極的だった経営者も取引に踏み切るケースが増えています。
産業構造の変化
技術革新が著しいセクターや、グローバル化が進む中での国際的な市場統合によってM&Aが牽引されています。AI、半導体、電気自動車、バイオテクノロジーなどの成長分野でM&Aが活発化しています。
▷関連:M&A増加の3つの理由と背景|会社売却は今後も増える?
業界別のM&Aのトレンド
業界によって、M&Aの動向やトレンドには違いがあります。ここでは、業界別にM&Aの動向やトレンドを解説します。
薬局業界
薬局業界では、薬剤師の不足が問題となっています。その課題を解決する目的で、中小規模の薬局が、M&Aにより大手の薬局の傘下となるケースが増加傾向です。大手の薬局にとってM&Aは、薬剤師をまとめて確保する方法になるため、店舗の拡大もしやすくなります。薬局業界自体は成長が見込まれていることから、M&Aによる異業種からの参入も増えている状況です。
▷関連:調剤薬局のM&Aが多い理由とは?売却価格の相場、成功ポイント
▷関連:M&Aが活発な「ドラッグストア業界」の動向・価格相場とは?
医療・介護業界
医療・介護業界は、今後も十分な需要が見込まれているものの、長時間労働や低賃金などによる人材不足の課題もあります。後継者がいない開業医も増えているのが実情です。そのため、人材不足や後継者不在などの問題を解決する方法として、M&Aが注目されています。また、施設や設備を強化する目的で、M&Aが実施されるケースも珍しくありません。
▷関連:医療法人のM&A|経営権承継・持分譲渡の手法、売却相場などを解説
▷関連:後継者難「病院・クリニックのM&A」目的・価格・方法・流れとは?
▷関連:介護業界のM&A|動向・特徴・メリット・成功ポイント・案件事例
運送・物流業界
運送・物流業界も需要が増しており、将来性が期待できる業界です。ただし、規制緩和による競争の激化や、ドライバーの人手不足といった課題もあります。それらの解決策として、中小規模の運送会社が、M&Aにより大手企業の傘下に入るケースが増えています。
労働時間を適正に管理する「2024年問題」として問題視されている、時間外労働の規制などの影響もあり、運送・物流業界におけるM&Aは、今後ますます増加する可能性が高いでしょう。
▷関連:運送業2024年問題への対応策|M&Aによる変化と未来・注意点
▷関連:物流会社の事業承継・M&A|物流業界の事業売却の傾向・事例も紹介
建設業界
建設業界は規模が大きく、今後の需要の予測も安定しています。しかし、慢性的な人材不足が生じており、中小企業の多くが悩んでいます。また、高齢化による廃業も相次いでいます。人手不足や後継者不在による廃業の課題解決を、M&Aにより目指すケースが増えてきました。また、建設業界でも労働時間を適正に管理する「2024年問題」を見越し、対策としてM&Aを実行する企業もいます。
▷関連:成功する「建設業界M&A」のポイント!注意点や対処法も解説
▷関連:2025年問題が直撃する「建築会社のM&A」の動向|事例も紹介
▷関連:設備工事・内装工事業界のM&A動向、事例、メリット・デメリット
不動産業界
不動産業界は、人口減少の影響を特に受けやすいという特徴があります。たとえば、地方の過疎化に伴って空家が生じたり、高齢の単身者が増加したりしています。また、経営者自身も高齢になり、後継者の不在に悩むケースも多い状況です。そのような状況のなか、規模の拡大や都市部への進出などを目的としたM&Aが、不動産業界で活発に行われています。
▷関連:不動産M&Aとは?通常売買との違い・手法・利点と欠点・税務に注意
IT業界
IT業界でも、慢性的な人材不足の問題があります。また、変化が速い業界であり、他の業界よりも早い時期から、後継者への事業承継を検討する経営者も少なくありません。問題を解決する方法として、IT企業同士のM&Aが注目されています。また、大手企業が新しい技術や知見を確保する目的で、ベンチャー企業を相手に、M&Aを実施するケースもあるでしょう。
▷関連:増加する「IT業界のM&A」で2025年の崖を解決できる?
▷関連:システム開発会社のM&A|中小企業の価格相場・事例・利点と欠点
▷関連:映像・広告会社のM&A|業界の特性・課題・外部環境と成約事例
▷関連:SES業界のM&A|価格相場・高値譲渡のポイント・近年の成約事例
▷関連:高額譲渡できるアプリ案件とは?業界動向・M&A方法・相場・手順
製造業界
日本の製造業界は、世界のなかでも特に高い競争力を誇っていました。しかし、近年は他国の製造業の台頭により、競争力が落ちています。製造業界でも、後継者の不在に悩む中小企業が多く、M&Aにより大手企業の傘下に入るケースは珍しくありません。M&Aを実施することで、中小企業の廃業を防げるようになり、長年にわたり培ってきた技術の承継も可能です。
▷関連:製造業界のM&Aは多い?動向や傾向・IT技術の影響・成功要因とは
▷関連:食品メーカーのM&A|業界環境・目的・2024年までの成約事例
サービス業界
サービス業界には、宿泊施設、外食産業、人材派遣、教育など、幅広い分野が含まれています。いずれも需要が高く、今後も市場の成長が見込めます。しかし、サービスを提供する人材不足は大きな課題です。人材不足に陥っている中小企業が大手企業の傘下に入り、サービスの品質の維持向上を目指すケースも増えています。
▷関連:成功する「ホテル業界のM&A」とは?買収する魅力・対象の選び方
▷関連:人手不足が深刻な「宿泊業・旅館のM&A」の課題・譲渡事例
▷関連:インバウンドが旺盛な「旅行業界のM&A」!代理店の譲渡が増加見込
▷関連:外食業界のM&A動向は?外食産業の課題・M&A成約事例とは
▷関連:人材業界のM&A動向とは?メリットや手順、注意点、事例を解説
▷関連:人材派遣会社のM&A|業界再編・譲渡メリットや注意点・売却相場を解説
▷関連:少子化が進む「塾・予備校のM&A」の動向・戦略と成約事例
▷関連:保育園のM&A|業界動向・利点と欠点・売却相場・事例とは
▷関連:増加する美容院が抱える課題・M&Aの譲渡相場や注意点とは
M&Aの今後の予測
アメリカでは、設立から間もない企業が、M&Aにより株式を譲渡し、投資した資金を回収するケースが多くみられます。今後は日本においても、設立したばかりの企業がM&Aにより飛躍を目指すパターンが増加すると考えられます。
また、東南アジアでのM&Aも活発です。日本企業が海外進出を目指すには、東南アジアでのM&Aにも積極的に挑戦する必要があるでしょう。インターネットを活用したM&Aのマッチングも増加しています。
M&Aの長期トレンドのまとめ
日本国内のM&Aは増加傾向にあり、今後も積極的に取り組む企業が多いと予測できます。業界によって細かい事情は異なりますが、人材不足や後継者の不在などの課題を解決するためにM&Aを実行する企業が多い傾向にあります。
みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社です。M&Aによる第三者への事業承継だけでなく、事業所内承継、親族内承継といった、複数の方法を提案できます。 それぞれのメリット・デメリットを比較したうえで、最終的な判断を下すことが可能です。経営コンサルティングの経験者も在籍しており、精緻な計画の策定にも対応できるため、ぜひご相談ください。
著者
-
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
最近書いた記事
- 2025年1月19日中小企業のM&A仲介とは?費用・メリット・他業者との違い・選び方
- 2025年1月18日M&Aで従業員の待遇はどう変わる?M&Aのメリットや注意点を解説
- 2025年1月16日化粧品業界のM&A事例18選!メリット・売却価格相場・成約事例
- 2025年1月15日廃業とM&A売却の比較|利点と欠点・税金面・後継者難倒産が増加