国内M&A市場は後継者不足や経済のグローバル化を背景に拡大を続けています。2024年も過去最高の成約件数(4,700件)を記録し、今後もさらなる成長が見込まれます。本記事では、M&A市場の現状と将来展望について解説します。
国内M&A市場の現状と推移
国内M&A市場は、この数十年な成長を遂げています。2022年に過去最高の4,304件を記録して以来、その勢いは衰えることなく、2024年も4,700件と新たな記録を更新しました。この市場拡大の背景には、さまざまな要因が絡み合っています。
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2024年の国内M&A市場を振り返る
2025年1月公表のレコフデータによると、2024年の国内M&A市場は4,700と、前年の4,015件を上回る成約件数を記録し、市場の活況ぶりを示しました。特筆すべき点として、以下のトレンドが顕著でした。
- 中小企業のM&A活性化: 後継者問題の深刻化により、中小企業のM&Aが急増しました。東京商工リサーチの調査によると、2024年の「後継者不在率」は62.15%に達し、多くの中小企業がM&Aを事業承継の選択肢として検討するようになりました。
- テクノロジー企業の買収増加: DX推進の流れを受け、IT・テクノロジー企業の買収が活発化しました。特に、AI、IoT、クラウドサービスなどの分野で高い技術力を持つ企業が注目を集めました。
- クロスボーダーM&Aの回復: コロナ禍で停滞していたクロスボーダーM&Aが徐々に回復し、特にアジア地域での取引が増加しました。日本企業の海外展開戦略の一環として、IN-OUT型のM&Aが再び注目を集めています。
- ESG関連M&Aの台頭: 環境・社会・ガバナンス(ESG)への関心の高まりを受け、再生可能エネルギーや循環型経済に関連する企業のM&Aが増加しました。
- スモールM&Aの拡大: 大型案件だけでなく、中小規模の企業間でのM&Aも活発化しました。特に、地方の中小企業や個人事業主を対象としたスモールM&Aの市場が拡大しています。
これらのトレンドは、日本のM&A市場が多様化し、成熟段階に入りつつあることを示しています。
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M&A市場が拡大してきた要因
M&A市場が拡大している背景には、複数の要因が存在します。主な要因を見ていきましょう。
後継者問題の深刻化
日本の中小企業が直面している最も深刻な課題の一つが、後継者不足です。東京商工リサーチが2024年11月に発表した2024年「後継者不在率」調査によると、「後継者不在率」は62.15%に達し、前年から1.06ポイント上昇しています。この数字は、実に10社のうち6社以上が後継者問題に直面していることを意味します。業種別に見ても、後継者不在率は50~70%台と総じて高い状況にあります。
特に、以下の業種で顕著な傾向が見られます。
- 建設業:高齢化が進む職人の技術継承が課題
- 小売業:eコマースの台頭による事業モデルの変革が必要
- 製造業:技術革新への対応と海外競争力の維持が課題
このような状況下で、M&Aは事業承継の有効な選択肢として注目を集めています。親族内承継や社内承継が難しい場合でも、M&Aを通じて事業を存続させ、従業員の雇用を守ることができるからです。
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人手不足の深刻化
少子高齢化の進行に伴い、中小企業の人手不足も顕著になっています。特に、地方の中小企業では、若年労働力の確保が困難になっており、事業継続の見通しが立たない企業が増えています。この問題に対して、M&Aは以下のような解決策を提供します。
- 事業統合による人材の確保
- 業務効率化によるリソースの最適配分
- 新たな技術や知見の導入による生産性向上
人手不足を補う方法としてM&Aを進める企業は、今後さらに増加すると予想されます。
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経済のグローバル化
日本企業の海外進出意欲は依然として高く、経済のグローバル化が進んでいます。しかし、海外進出には多くの時間とコスト、そしてリスクが伴います。そこで、M&Aが効果的な戦略として注目されています。M&Aを通じた海外進出のメリットには以下のようなものがあります。
- 現地市場への迅速な参入
- 既存の顧客基盤やブランドの獲得
- 現地の規制や商習慣に関するノウハウの取得
- 人材や技術の即時獲得
特に、IN-OUT型(国内企業が海外企業を譲受)のM&Aは、市場規模が最も大きく、1件あたりの取引金額も高額になる傾向があります。
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M&A支援体制の充実
近年、M&Aを支援する専門家や企業が増加し、支援体制が充実してきています。特に、中小企業や個人事業主向けのM&Aサービスが拡大しており、以前は大企業のものと思われていたM&Aが、より身近なものになってきています。M&A支援体制の充実は、以下のような効果をもたらしています。
- M&Aプロセスの効率化と迅速化
- 専門知識を持つアドバイザーによる適切なサポート
- マッチング精度の向上
- 中小企業でも利用しやすい価格帯のサービス提供
これらの要因により、M&Aの敷居が下がり、より多くの企業がM&Aを検討するようになっています。
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M&Aに対する認識の変化
かつては「企業買収」というネガティブなイメージが強かったM&Aですが、近年ではその認識が大きく変化しています。M&Aは企業成長の有効な手段として広く認知されるようになり、ポジティブな印象が広がっています。M&Aに対する認識の変化は、以下のような要因によってもたらされました。
- 成功事例の増加と情報共有
- M&Aに関する教育や啓蒙活動の拡大
- 経営者の世代交代による新しい価値観の浸透
- 企業の社会的責任(CSR)の観点からの事業継続の重要性認識
この認識の変化により、M&Aを検討する企業が増加し、市場の拡大につながっています。
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M&A市場の種類別動向
M&A市場は、取引の形態によっていくつかの種類に分類されます。ここでは、主要な3つの型について、その特徴と最近の動向を詳しく見ていきます。
IN-IN型(国内企業同士)のM&A
IN-IN型は、日本国内の企業同士で行われるM&Aを指します。この型のM&Aは、国内市場の再編や業界の構造改革において重要な役割を果たしています。
最近の動向
- 2018年までは、成立件数に比べて取引金額が比較的低く推移していました。これは、主にベンチャー企業の買収が多かったためです。
- 2019年以降、取引金額が大幅に増加しています。この背景には、ソフトバンクグループによる大型M&Aの実施があります。
- 2024年も引き続き活発な動きが見られ、特に中小企業間のM&Aが増加しています。
今後の展望
- 後継者問題の深刻化に伴い、中小企業のM&Aがさらに増加すると予想されます。
- 業界再編の動きが加速し、同業種間のM&Aが活発化する可能性があります。
- テクノロジーの進化に伴い、異業種間のM&Aも増加すると考えられます。
IN-OUT型(日本企業が海外企業を買収)のM&A
IN-OUT型は、日本企業が海外企業を買収するM&Aを指します。このタイプのM&Aは、日本企業のグローバル展開戦略において重要な役割を果たしています。特に東南アジアは、物理的・文化的距離が近く、また親日国が多いこともあり、中小企業が手の届きやすい海外市場として、新規支出または事業拡大の手段としてM&Aが検討されます。
最近の動向
- 2019年まで成立件数は増加傾向にありましたが、2020年にはコロナ禍の影響で一時的に減少しました。
- 2024年には、コロナ禍からの回復に伴い、再び増加傾向に転じています。
- M&Aのタイプの中で最も市場規模が大きく、1件あたりの取引金額も高額になる傾向があります。
今後の展望
- アジア市場を中心に、新興国への進出を目的としたM&Aが増加すると予想されます。
- 技術獲得を目的としたM&Aも活発化し、特にAIやIoT関連の企業が注目を集めると考えられます。
- 環境技術や再生可能エネルギー分野での国際的なM&Aも増加する可能性があります。
OUT-IN型(海外企業が日本企業を買収)のM&A
OUT-IN型は、海外企業が日本企業を買収するM&Aを指します。このタイプのM&Aは、日本市場への参入や日本の技術・ブランドの獲得を目的として行われることが多いです。
最近の動向
- 成立件数は他のタイプと比較して少ない傾向にありますが、1件あたりの取引金額は大きくなる傾向があります。
- 2018年には取引金額が急増しましたが、これは大型のM&Aが複数成立したためです。
- 2024年も引き続き、日本の高度な技術を持つ企業や独自のブランド力を持つ企業が注目を集めています。
今後の展望
- 日本の高齢化社会に対応したヘルスケア関連企業への関心が高まると予想されます。
- 日本の製造業、特に精密機器や先端材料分野の企業が買収のターゲットになる可能性があります。
- 日本のコンテンツ産業(アニメ、ゲームなど)への海外からの投資も増加すると考えられます。
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スモールM&A市場の台頭
近年、日本のM&A市場において注目を集めているのが「スモールM&A」です。スモールM&Aとは、一般的に売上高10億円未満の中小企業や個人事業主を対象としたM&Aを指します。この市場は、従来のM&A市場とは異なる特徴を持ち、急速に拡大しています。
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スモールM&A市場の特徴
一般に、小規模M&A市場の特徴は以下のようなものです。
対象企業の規模
主に年商10億円未満の中小企業や個人事業主が対象となります。
取引金額
数千万円から数億円程度の比較的小規模な取引が中心です。
業種の多様性
小売業、サービス業、製造業など、幅広い業種が対象となります。
地域性
地方の中小企業や商店なども多く含まれ、地域経済の活性化にも寄与しています。
売り手のニーズ
後継者不在や事業継続の困難さが主な売却理由となっています。
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スモールM&A市場拡大の背景
スモールM&A市場が拡大している背景には、以下のような要因があります。
後継者問題の深刻化
中小企業や個人事業主の高齢化が進み、後継者が見つからない企業が増加しています。
M&Aに対する認識の変化
かつてはネガティブなイメージがあったM&Aが、事業承継の有効な選択肢として認知されるようになりました。
M&A支援サービスの充実
中小企業や個人事業主向けのM&A仲介サービスが増加し、アクセスが容易になりました。
買い手のニーズ多様化
新規事業への参入や既存事業の補完を目的とした買収ニーズが増加しています。
金融機関の積極的な関与
地域金融機関がM&A仲介に積極的に取り組むようになり、情報提供や資金調達面でのサポートを行っています。これにより、スモールM&A市場の活性化が促進されています。
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スモールM&A市場の今後の展望
2025年以降のスモールM&A市場は、さらなる成長が見込まれています。以下に主な展望をまとめます。
市場規模の拡大
後継者問題の深刻化に伴い、スモールM&Aの需要は今後も増加すると予想されます。特に、地方の中小企業や個人事業主を中心に、M&Aによる事業承継が活発化すると考えられます。
テクノロジーの活用
M&Aプラットフォームやマッチングサービスの進化により、より効率的かつ透明性の高いM&Aプロセスが実現すると予想されます。AIやビッグデータを活用した企業価値評価や適合性分析も普及する可能性があります。
業種の多様化
これまで比較的M&Aが少なかった業種(例:農業、伝統工芸など)でもM&Aが増加すると予想されます。これにより、日本の産業構造の変革にも影響を与える可能性があります。
クロスボーダー取引の増加
海外からの投資家や企業が、日本の中小企業に注目する機会が増えると予想されます。特に、独自の技術やノウハウを持つニッチな企業が注目を集める可能性があります。
M&A後の統合支援サービスの充実
単なる仲介だけでなく、M&A成立後の経営統合や事業再構築を支援するサービスが拡大すると予想されます。これにより、M&A後の成功率向上が期待されます。
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売り手から見たM&A市場
近年のM&A市場は、「売り手市場」としての特徴が顕著になっています。
売り手優位の背景
近年、譲受企業が急拡大する反面、譲渡企業は緩やかに増加ないし高止まりしていると考えられます。その他には、以下のような状況も見られます。
後継者不足
中小企業の後継者不足が深刻化しており、事業承継の手段としてM&Aを選択する企業が増加しています。
業界再編の加速
競争力強化や規模の経済を追求するため、企業の買収意欲が高まっています。
新規事業参入ニーズ
既存事業の成長が鈍化している大企業が、新規事業獲得の手段としてM&Aを積極的に活用しています。
投資資金の増加
プライベートエクイティファンドなど、M&A投資を目的とした資金が増加しています。
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譲渡オーナーにとってのメリット
上記のような「売り手市場」の状況は、売主にとっては次のようなメリットが見込めます。
高い企業価値評価
譲受を希望する希望が多いため、より高い価格で企業を売却できる可能性があります。
条件交渉の優位性
複数のお相手候補企業から最適な条件を引き出すことができます。
選択肢の多様性
事業の継続性や従業員の処遇など、譲渡企業の希望に沿った譲受企業を選択できる可能性が高まります。
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2025年以降の展望
2025年以降の日本国内のM&A市場は、引き続き活況が続くと予想されます。特に、中小企業や個人事業主を対象としたスモールM&A市場の成長が顕著になると考えられます。また、売り手市場としての特徴も当面は継続すると見込まれます。ただし、以下の点にも注意が必要です。
業界による差異
成長産業と衰退産業では、売り手市場の度合いに差が出る可能性があります。
経済環境の変化
景気後退や金融市場の変動により、買い手の投資意欲が減退する可能性もあります。
規制環境の変化
M&Aに関する法規制の変更により、市場動向が影響を受ける可能性があります。
M&Aを視野に入れている企業は、これらの市場動向を注視しつつ、自社の成長戦略や事業承継計画にM&Aをどのように位置づけるか、慎重に検討する必要があるでしょう。
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M&A市場のまとめ
国内M&Aの市場は、活況を呈しています。M&Aは単なる企業の売買ではなく、日本経済の新陳代謝を促進し、産業構造を変革する重要な手段となっています。今後も、M&A市場の健全な発展が、日本経済の活性化に寄与することが期待されます。
みつきコンサルティングでは、親族内承継から第三者承継(M&A)まで複数の選択肢を考慮し、メリット・デメリットを比較した上で最適な選択を提案しています。企業譲渡を検討するなら、まずお気軽にお問い合わせください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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