M&Aで企業譲渡しようとすると、譲渡先の候補には上場企業も視野に入ります。本記事では、上場企業とM&Aを行う際のポイントやメリット・デメリット、注意点や成約事例例を紹介します。
上場企業への譲渡は増加傾向
M&A Onlineの集計によると、2023年の国内上場企業によるM&A件数は1,068件と高水準でした。これはリーマンショック(2008年)以降で最多の数値です。
レコフデータ等に基づき弊社作成
国内の企業同士によるM&A(In-In型)が増加していますが、上場企業による海外案件も7年ぶりに年間200件を超えました。
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上場企業とは
上場企業とは、その発行する株式を、証券取引所で、売買可能な企業をいいます。
上場市場の種類
発行する株式が上場している証券取引所は、東京証券取引所のほか、名古屋、福岡、札幌にあります。このうち、東証は、2022年4月4月から、「プライム」「スタンダード」「グロース」という3つの市場に再編されています。
上場企業と非上場企業の違い
非上場企業は上場企業と違い、株式を公開していません。そのため外部の人間が市場を通じて自由に株式を購入することはできません。そのため、非上場企業は、上場企業と比較して、市場を通じた資金調達(公募増資)はできませんが、第三者に買収(同意なき買収を)されるリスクは基本的にありません。経営者の意思を反映しやすい、自由で機動的な経営を実現できることも非上場企業の特徴です。
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上場企業に譲渡するメリット・デメリット
上場企業とM&Aを行うことには、メリットとデメリットがあります。
メリット
上場企業に企業譲渡するメリットを解説します。
キャピタルゲイン(売買差益)の獲得につながる
上場企業とM&Aを行うことで、キャピタルゲイン(売買差益)を得られる可能性があります。株式譲渡によるM&Aであれば、税金面が優遇されます。そのため、M&A後に多くの資金を確保しやすい点が、上場企業と取引をするメリットの1つです。M&Aのあとに再度事業を始めたい場合などには、キャピタルゲイン(売買差益)を狙ったM&Aも検討されます。
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従業員の雇用を守れる
上場企業へのM&Aでは、従業員の雇用を守りやすい点もメリットです。規模の大きな会社であれば、そのまま従業員の雇用を継続してもらえる可能性が高いです。多くの従業員を抱えている場合、雇用継続の問題がM&Aを頓挫させるケースもあります。M&Aの契約時には従業員の処遇について条件を出し、雇用を守ることも重要です。
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デメリット
上場企業に企業譲渡する場合には、デメリットもあります。事前にデメリットを把握し、対策を練っておきましょう。
クロージング(成約)に時間がかかる可能性がある
M&Aのクロージング(成約)に時間がかかる可能性があります。特に上場企業は多くの関係者の賛同が必要なケースが多く、慎重に手続きを進めるため想定以上の時間がかかることも懸念されます。ある程度時間がかかることを見込んで、M&Aの計画・スケジュールを立てることがポイントです。
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事業上の権限が縮小される
M&Aで自社企業が上場企業の傘下に入る場合、権限が縮小される可能性があります。例えば経営方針や予算配分、社内人事などについて、譲受側企業の意向に沿う必要があります。従来の手法で事業経営ができなくなるリスクも、上場企業とのM&Aにおけるデメリットの1つです。
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上場企業とM&Aを行う際の注意点
上場企業とM&Aを行う際には、いくつかの注意点があります。事前に以下の注意点を確認し、デメリットやトラブルを回避できるように努めましょう。
M&Aの目的を曖昧にしない
目的が曖昧だと、M&Aによるメリットを引き出せない可能性が高まります。なぜM&Aを選択するのか、何のためにM&Aを実施するのか明確にしておくことが、成果を出すための基本です。事前に自社の役員や従業員と相談して、M&Aの計画を立てるのも1つの方法です。それぞれの立場からの意見を聞き、M&Aの計画に反映させることも考えられます。
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譲渡先の上場企業について調べておく
M&Aでは、譲渡先の上場企業について詳しく調べておく必要があります。「上場企業=安心して事業を任せられる」とは限らないため、自社で相手企業の信用度を測ることがポイントです。自社の要望や方針とマッチするか、きちんと精査した上で契約交渉を進めることが、M&Aにおける基本です。
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上場企業への譲渡方法
上場企業とのM&Aの際には、以下の手法が採用されます。それぞれのM&A手法について、詳細を解説します。
買収
買収によるM&Aとは、譲渡オーナー側からすると、「株式譲渡」や「事業譲渡」ということになります。株式譲渡では、一般に、自社株の過半数(100%が多い)を、相手方に譲渡する方法です。事業譲渡は、自社の事業の一部または全部を、相手方に譲渡する方法です。両者の中間的な方法として、事業の一部を譲渡する場合に、「会社分割」と株式譲渡を組み合わせる方法も実務では使われます。いずれの方法を採用するかで、譲渡オーナーの最終的な手取金額や相手方の実質的な買収金額が異なります。
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吸収合併
合併とは、複数の会社をまとめて1つの会社に統合するM&Aの方法です。相性の良い企業同士による合併は、シナジー(相乗効果)を引き出し、お互いの良さを活かせる企業を生み出せる可能性があります。逆に事業における制度や企業風土があわないと、合併しても非効率的な結果を導くこともあり得ます。自社企業と相手企業の相性を、さまざまな角度から検証した上で、合併によるM&Aを実施することがポイントです。もっとも、実務上、合併が採用されることは殆どありませんし、まして上場企業と合併することは通常ありません。
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資本業務提携
資本業務提携とは、お互いの資本と業務を提携するM&Aの方法です。どちらかの企業に権限を譲渡するのではなく、お互い協力し合う形になる点が特徴です。上場企業にとって価値のあるノウハウ・顧客ネットワーク・資産が自社にある場合、資本業務提携で協力体制を構築するケースも考えられます。
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上場企業への譲渡事例
上場企業とM&Aを行った事例は多数あります。その極一部ですが、例えば以下の事例があります。
GloLing
2022年3月18日、株式会社GloLingは、全株式を株式会社エルテスに譲渡しました。GloLingはSES(システム・エンジニアリング・サービス)事業を展開してい企業で、エルテスは金融・物流・行政・通信といった、多くの開発支援を担当している企業です。株式会社エルテスは株式会社GloLingを子会社化し、エンジニアの確保や開発の内製化を進めました。
中神運送
2022年2月28日、株式会社ハマキョウレックスは、貨物自動車運送業などを営む中神運送株式会社と、株式譲渡によるM&Aを実施しました。株式会社ハマキョウレックスは、アパレル・食品・医薬品・医薬機器の運送事業を展開している企業です。同社は中神運送のノウハウを活用し、M&Aによるシナジー(相乗効果)の構築を目指しました。
なないろ
株式会社なないろは2022年3月8日、介護や医療受託事業を営む株式会社ソラストにより子会社化されました。株式会社ソラストは認可保育所などを47ヵ所運営しており、株式会社なないろも19ヵ所の認可保育所などを運営しています。双方のノウハウと保育所を活用し、事業の成長を目指した事例です。
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上場企業への譲渡のまとめ
上場企業とのM&Aには、さまざまなメリット・デメリットがあります。M&Aによる高いシナジー(相乗効果)を引き出し、目的を達成するためにも、上場企業と実施するM&Aについて理解しておくことをおすすめします。
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著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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