既存のブランドの獲得を目的としてM&A(買収)が行われることがあります。本記事では、このブランドM&Aについて、アパレル業界を中心に、実施する目的な注意点を解説します。事例も幅広に紹介しますので、ブランドM&Aを検討している方は、参考にしてください。
ブランドM&Aとは
ブランドM&Aとは、既でに高い知名度を持つブランドを譲り受けることで、スピーディーな事業展開が可能となるM&Aの手法です。実施する狙いは企業ごとに異なりますが、近年は増加しています。
M&Aの手法としては、ブランドを含む会社を丸ごと譲渡する場合には、株式譲渡が選択されます。ブランドの事業(部門)単位で譲渡する場合には、事業譲渡を利用します。なお、ブランドの名前やロゴのみを対象とするような取引であれば、営業権(のれん)譲渡とでも言うべき取引になりますが、事業譲渡との区別は難しく、また区別する実益もありません。
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ブランドの重要性と価値
ブランド力は、商品やサービスに対する、消費者の認知や評価の高さを表します。近年の消費者は、多様な選択肢のなかから商品を選べる環境に置かれています。多くの競合に勝つためには、商品にブランド力を持たせ、競合との差別化を図ることが重要です。
ブランドM&Aが活発化している要因
ブランドの売買が活発化している背景には、以下のような要因があります。
国内市場の成熟化
日本国内の市場は少子高齢化や人口減少の影響を受けており、新たな成長機会を見つけることが難しくなっています。そのため、企業は他社のブランドや資産を取り込むことで事業を拡大しようとする動きが加速しています。
デジタル化への対応
デジタル化の進展により、EC事業の強化やデジタルマーケティングの必要性が増しています。こうしたデジタル分野のノウハウを持つ企業やブランドを取り込むことが、競争力を維持するために重要とされています。
異業種からの参入
総合商社やIT企業など異業種の企業がアパレルブランドや食品ブランドの買収に乗り出しています。これにより、業界の枠を超えたM&Aが活発になっています。
事業承継問題
中小企業を中心に、後継者がいないために事業を譲渡せざるを得ないケースが増えています。こうした事業承継問題がM&Aの増加を後押ししています。
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M&Aにおける注意点
M&Aを成功させるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
商標権の確認
買収対象となるブランド名の商標登録状況を事前に確認することが欠かせません。商標権が未登録の場合、後から法的なトラブルに発展するリスクがあるためです。
ブランド価値の評価
買収対象ブランドが市場でどのように評価されているか、また将来の成長性がどの程度見込めるかを慎重に分析する必要があります。ブランド価値を正確に評価することで、適切な買収金額を見極めることができます。
統合後の戦略
買収後にブランドをどのように統合し、再構築していくかを計画しておくことが大切です。統合がうまくいかないと、買収したブランドの価値を損なう可能性があるため、具体的な戦略を立てることが求められます。
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ブランドM&Aが多い業界
日本企業を売り手(対象会社)とするM&Aにおいて、ブランドの獲得を目的としたM&Aが多い業界は、以下のような業界が挙げられます。
食品・飲料業界
日本の食品や飲料ブランドは、品質の高さや独自性が海外でも評価されており、特に和食や日本酒、緑茶などの伝統的な製品は世界的に人気があります。
例えば、キリンやサントリーなどの飲料ブランドが買収の対象になるケースがあります。地域に根ざした食品メーカーが、海外の大手企業により買収される例もあります。
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化粧品・美容業界
日本の化粧品ブランドは「高品質」「安全性」「独自の技術」で知られ、特にアジア市場や欧米で需要があります。
例えば、資生堂やコーセーといった大手だけでなく、中小規模のブランドもM&Aの対象になることがあります。韓国や欧米企業が日本ブランドを買収することで、現地市場へのアクセスを拡大させることもあります。
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アパレル・ファッション業界
日本のアパレルブランドは独自のデザイン性や品質で一定のブランド価値を有しており、特に「メイド・イン・ジャパン」のイメージが重視されています。
例えば、国内外で人気のあるセレクトショップやブランド(例:ユナイテッドアローズやビームス)が買収されるケースがあります。スニーカーやストリートファッションブランドも注目されています。
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伝統工芸・高級品業界
和紙、陶磁器、漆器といった日本の伝統工芸品や高級ブランドは、文化的な価値が高く、海外の高級市場で需要があります。
例えば、高級腕時計ブランドや陶磁器メーカーが海外企業による買収対象となることがあります。
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飲食チェーン業界
日本の飲食チェーン(ラーメン、寿司、居酒屋など)は海外展開に成功している事例が多く、現地市場でのプレゼンスを高める目的で買収されることがあります。
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ブランドM&Aの成約事例
アパレル・ファッション業界を中心に、ブランドの売買を目的としたと思われるM&Aの成約事例を紹介します。
アパレル企業同士の事例10選
アパレル・ファッション業界の企業同士のブランドM&Aについて、具体的な事例を紹介します。
TSIホールディングスと3ミニッツ
TSIホールディングスは、アパレルの企画から販売までを取り扱う多数の傘下企業を持ちます。同社は、Webマガジンの運営を行う3ミニッツに対してM&Aを実施しました。デジタル企業化を目的とした、経営戦略の一環です。ETRÉ TOKYOの事業を譲受し、新たに設立した子会社で同事業の運営を行うことで、新たな顧客層の獲得や市場拡大が期待されています。
C.R.E.A.Mとジャパンイマジネーション
レディースのカジュアルブランドを手掛けるジャパンイマジネーションと、ドレスの企画から販売までを行うC.R.E.A.Mの事例です。C.R.E.A.Mは、フォーマルなシーンを意識した事業展開だけではなく、他分野への展開も模索していました。このM&Aでは、ジャパンイマジネーションから2つのブランドを譲受し、自社サイトを活用した展開を行っています。
W&Dインベストメントデザイン・八木通商とリデア
多くの海外ラグジュアリーブランドを扱うセレクトショップ「STRASBURGO」を展開するリデアと、W&Dインベストメントデザイン、八木通商の間で行われた事例です。ファンド運用会社であるW&Dインベストメントデザインと、数々のブランドを扱う繊維専門商社である八木通商がリデアの共同スポンサーとなり、新設されたオンラインストアに事業が譲渡されました。
宝島ジャパンとアパレルECサイト運営会社
アパレルショップ3店舗を運営する宝島ジャパンと、アパレル・雑貨を中心とするECサイト運営会社の事例です。宝島ジャパンは、アパレル販売ビジネスのデジタル化を目的として、インターネットに強く、類似事業を取り扱う企業とのM&Aを検討していました。
過剰在庫を抱えるECサイト運営会社とニーズ(需要)が合致し、デジタル面の強化やシナジー(相乗効果)が期待できることから、宝島ジャパンが事業と在庫を譲受しました。
ワークトゥギャザー・ロックトゥギャザーと神戸ザック
創業約50年もの歴史を持つ神戸ザックと、セレクトショップを運営するワークトゥギャザー・ロックトゥギャザーの事例です。このM&Aの背景には、神戸ザック側の後継者不足があります。廃業を検討していましたが、神戸市産業振興財団のサポートチームによる支援を受けたことがきっかけで、M&Aに至りました。
神戸ザックが、ワークトゥギャザー・ロックトゥギャザーに「イモック」の事業を譲渡し、神戸ザック前代表の指導の下で製造・販売される流れとなりました。
ニッセンとマロンスタイル
大きいサイズの女性専用アパレルサイトを運営するマロンスタイルと、婦人服を中心にさまざまな通販事業を手掛けるニッセンの事例です。ニッセンは、特殊サイズセグメントへの経営資源集中を目指しており、その一環としてM&Aを実施しました。ニッセンがマロンスタイルの全株式を取得し、同社を完全子会社化しました。
ワールドとラクサス・テクノロジーズ
高級ブランドバッグのレンタルサービスが特徴のラクサス・テクノロジーズと、多数のアパレルブランドを展開する企業の持株会社であるワールドの事例です。それぞれのニーズ(需要)が合致して、大きなシナジー(相乗効果)が期待できるため、ワールドが譲受する形でM&Aが行われました。
アングローバルとアンドワンダー
アングローバルが、アンドワンダーの全株式を取得し、子会社化した事例です。TSIホールディングスの子会社だったアングローバルが、EC分野を得意とするアンドワンダーを取り込むことで、事業規模の拡大を図りました。
花菱縫製とメルボグループ
オーダースーツの企画から販売までを行う花菱縫製と、紳士服やメンズウェアーを扱うメルボグループの事例です。花菱縫製とメルボグループは、生産・販売事業を統合することでシナジー(相乗効果)を発揮できると考え、M&Aに至りました。
TSIホールディングスがHUF
TSIホールディングスは、HUFの株式を90%取得し、子会社化しています。HUFは、アメリカ・欧州に事業展開するアパレルブランドです。日本での販売権は、「STUSSY」を展開するTSIホールディングスの子会社が取得しています。同グループ企業のノウハウを積極的に取り入れることで、国内・アジアを中心とした海外市場での成長が見込まれています。
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異業種とアパレル企業の事例8選
異業種とアパレル・ファッション業界の企業とのM&Aも行われています。例えば以下のような事例です。
Spiberと豊島
豊島がSpiberの第三者割当増資を引き受けて、両社の間で共同研究契約を締結した事例です。環境に配慮した素材に注目し、アパレル産業全体に関わる事業を展開している豊島と、植物由来構造たんぱく質素材の産業化に取り組むSpiderとの、シナジー(相乗効果)が期待されました。主な目的は、さまざまな分野で構造タンパク質繊維を普及させるための共同開発です。
アパレルReSTARTファンドとFactory Express Japan
アパレルReSTARTファンドが、Factory Express Japanの全株式を取得し、完全子会社化した事例です。どちらも支援事業を展開する会社であり、Factory Express Japanの事業拡大を目的として行われました。
インキュベイト・ファンドとpark&port
インキュベイト・ファンドとEast Venturesが、park&portによる第三者割当増資を引き受けて、出資した事例です。park&portの資金調達を目的として行われ、この事例によって、park&portが調達した資金は、累計1億円を突破しました。
九州オープンイノベーションファンドとpatternstorage
patternstorageが、九州オープンイノベーションファンドとちゅうぎんインフィニティファンドを引受先とする第三者割当増資をした事例です。patternstorageは、アパレル生産管理クラウドソフトウェアなどを開発しており、アパレル製造業に対して、サプライチェーンのDX支援ソフトウェアの提供を予定しています。
FFGベンチャービジネスパートナーズが運営する九州オープンイノベーションファンドと、中国銀行と中銀リースが運営するファンドのちゅうぎんインフィニティファンドを対象に、資金調達を目的として行われました。
ZホールディングスとZOZO
日本最大級のファッションECサイトを運営するZOZOと、大手インターネット企業Zホールディングスの事例です。Zホールディングスが、議決権割合50.10%にあたる株式を取得してZOZOを子会社化し、両社の間で資本業務提携契約が締結されました。
ヤギとアタッチメント
繊維の卸売業などを生業とする株式会社ヤギが、アパレル事業を行うアタッチメントに注目し、M&Aに至った事例です。株式会社ヤギは、有限会社アタッチメントの全株式を取得し、子会社化しました。M&Aの目的は、自社で商品の企画から販売まで行うノウハウの獲得です。ブランド力と販売事業強化も期待されています。
AnyMind GroupとLÝFT
AnyMind GroupがLÝFTに資本参加し、資本業務提携契約した事例です。インフルエンサーを起用した、協同ブランドの立ち上げを計画していたAnymind Groupは、その一環として、フィットネスブランド事業を手掛けるLYFTとの資本提携を行いました。一方、LYFT側は、Anymindの持つグローバル網を活用した販路拡大を目的としています。
丸井グループの子会社とGOOD VIBES ONLY
アパレル業界向けにCGやAIを駆使したDXソリューションを提供するGOOD VIBES ONLYと、多くの事業を展開する丸いグループの子会社の事例です。丸井グループ子会社のD2C&Co.は、GOOD VIBES ONLYへ出資して、資本業務提携契約を締結しました。
丸井グループの実店舗運営やクレジットカード事業と、GOOD VIBES ONLYが提供するサービスのシナジー(相乗効果)を期待して行われました。
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ブランドM&Aのまとめ
近年増加しているブランドM&Aは、1からブランドを成長させるのではなく、既存の認知度の高いブランドを獲得することで、早いブランド展開を可能にします。また、市場の成熟や消費者の動向変化に応じて、商品やサービスに対し、ブランド力を持たせることが成長戦略に必要です。
ブランドM&Aをはじめとして、効率的なM&Aを行うためには、専門知識が必要です。知識や経験がない場合、不利な条件でのM&Aとなってしまうケースもあります。このような失敗を防ぐためにも、M&Aの専門家に相談することがおすすめです。 みつきコンサルティングには、経営コンサルティング経験者も多く在籍しています。対象企業の詳細な事業分析を実施した上で、シナジー(相乗効果)創出を見込める候補先を紹介します。M&Aに関するご相談は、みつきコンサルティングにお任せください。
著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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