飲食店M&Aを実施するには、通常のM&Aに関する知識だけでなく、飲食店のM&Aに特有の情報を知ることも大事です。本記事では、飲食店M&Aのキホンについて解説します。飲食店のM&Aをお考えなら、ご参考ください。
飲食店のM&Aとは
飲食店のM&Aとは、飲食営業する店舗またはその店舗の運営会社の株式を、譲渡または買収する取引です。M&Aの手法としては、前者であれば事業譲渡(店舗譲渡)、後者であれば株式譲渡、ということになります。
なお、飲食店の場合には、「居抜き」譲渡により、既存の設備等は引き継ぐものの、営業は引き継がない方法もあります。営業を引き継がないため、M&Aというより、単なる設備譲渡ないし地位承継に該当します。物件オーナーの承諾が得られるならば、これはこれで有効な出店の方法と思います。
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コロナ禍でも新店舗をオープンした元気な飲食会社に加え、コロナ禍で苦境に立たされた飲食店も息を吹き返し、「いまが売り時」「むしろ積極買収していきたい」と売り・買い両面からM&A需要が高まっています。デリバリーサービスなどの新しい販売形態も確立され、飲食店の価値はあらためて見直されています。
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飲食店M&Aの近年の動向
飲食店M&Aについて知るには、近年の動向を把握することも重要です。以下では、飲食店M&Aの動向とその背景について解説します。
飲食店の需要が回復しつつある
一般社団法人 日本フードサービス協会が実施した、「令和3年 外食産業市場規模推計について」によると、2019年時点における飲食店の推計市場規模は14兆5,776億円でした。その後はコロナの影響による落ち込みを乗り越え、2021年後半から回復傾向にあります。2021年は前年比を下回ってはいるものの、16兆9,494億円という規模にまで回復しています。コロナによって外食事業は大きな痛手を受けましたが、少しずつ需要が戻りつつあると想定されます。
参考:令和 3 年(令和 3 年 1 月~令和 3 年 12 月)外食産業市場規模推計について
事業継続が困難と考える飲食店経営者も増加
需要回復の一方で、コロナの影響で事業継続が困難と考える飲食店経営者も増加しています。特に中小企業や個人経営の飲食店は、コロナをきっかけに廃業したり、別の業種に事業を移行したりするケースも多いです。そのため飲食店M&Aを実施し、事業を譲渡する飲食店は今後も増える可能性があるでしょう。
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ラーメン店の3割が赤字で、倒産が過去最多
2025年1月に帝国データバンクが公表した以下の「「ラーメン店」の倒産動向」では、ラーメン業態での競争激化が浮き彫りになっています。
赤字店が約3割
2023年度のラーメン店業績では、「赤字」が33.8%、「減益」が27.7%を占め、業績悪化が全体の61.5%に達しました。コロナ禍に次ぐ高水準で、主因は原材料費や人件費、光熱費の高騰に価格転嫁が追いつかないことです。特に原材料費は2024年平均で2022年比1割超増加し、豚肉や麺、具材の価格が軒並み上昇しています。しかし、ラーメンの平均価格は700円未満と安価なイメージが根強く、適正価格の設定が難しい状況が続いています。
倒産は過去最多を更新
2024年のラーメン店経営事業者の倒産件数は72件と過去最多を更新し、前年より3割以上増加しました。人件費や光熱費、原材料費の高騰に対し、価格転嫁が難しい状況が影響し、多くの店舗が閉店を余儀なくされました。
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飲食店M&Aが注目される理由
飲食店M&Aが注目される現状には、さまざまな理由があります。以下では、飲食店M&Aに注目が集まる理由について解説します。
深刻な人材難
飲食業界では、人材不足が慢性的な課題となっています。この業界は、拘束時間が長く、労働環境が厳しいという特徴があり、多くの方にとっては周知の事実と言えるでしょう。その結果、従業員が離職するケースが後を絶たず、さらに人手不足が深刻化しています。
また、全国の観光地においては、宿泊業や飲食業の時給が上昇傾向にあります。例えば、北海道のニセコや神奈川県の箱根地域では、東京都千代田区の時給を上回る状況も見られるようになっています。これらの地域では、観光需要の高まりが背景にあり、人材確保に向けた賃金の引き上げが進んでいると考えられます。
飲食店の評判やブランドを活用できる
飲食店は認知して顧客を獲得するまでが、困難な事業として知られています。しかし、M&Aであれば、既存の飲食店の評判やブランドをそのまま活用できるため、経営を軌道に乗せるまでのプロセスを省略可能です。事業を継続できる可能性が高いことから、飲食店M&Aに注目が集まっています。
比較的安価なM&A案件が多い
飲食店M&Aのなかには、安価な案件も多くあります。そのため小規模なM&Aがしやすく、個人でも参入可能なことから高い注目度を獲得しています。負債を抱えている飲食店でも、立地やノウハウのある従業員を継承できるのであれば、M&Aが成立する可能性があります。M&Aにおけるクロージング(成約)がしやすい点も、飲食店M&Aの特徴です。
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飲食店の譲渡価格の相場
飲食店M&Aの買収金額は、数十万円~数億円と幅広いです。企業同士の契約では数億円規模もありますが、個人のM&Aでは数十万から買収できる飲食店も多いです。そのため比較的挑戦しやすいM&Aとして、広く浸透しています。
また、ほかの業態より投資額の回収期間が短い点も、飲食店M&Aの特徴です。つまり、一般的な譲渡価格の算定方法である
譲渡価格=時価ベースの純資産(資産-負債)+のれん(利益等の複数年分)
において、「のれん」部分の価値を見出しにくいということです。例えば、1~2年分しか見れないようなことも珍しくありません。
一般に、飲食店は、競合による参入障壁が低く、また流行があり、外部環境の変化も受けやすい特徴があります。そのため、いまは利益を十分に出していても、M&A後も安定的に出し続ける蓋然性が(他業種に比べると)乏しいと言わざるを得ません。もちろん、固定客が付いていて、安定的な利益を計上し続けている優良店であれば、十分なのれん価値を見出すことも可能です。
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飲食店M&Aのメリット
飲食店M&Aには、通常のM&Aにはない多くのメリットがあります。以下では、飲食店M&Aならではのメリットについて解説します。
飲食店が築きあげた魅力を譲受側にアピールできる
飲食店M&Aでは、飲食店が築きあげた魅力を譲受側にアピールできる点がメリットの1つです。これまでの実績がM&Aにおける価値につながることは、飲食店M&Aの特徴です。食事の美味しさや顧客からの信頼などを活かして、新規での事業展開ができるため、譲受側にとっても高い評価を得ている飲食店を買収することには、大きなメリットがあります。
好条件の立地も資産価値になり得る
飲食店経営において、立地は集客などに大きな影響を及ぼします。好条件の立地にある飲食店を確保できる点が、M&Aにおける資産価値になる可能性もあるでしょう。周辺の環境変化などによって、現在の立地に新たな価値が生まれているケースもあるため、飲食店M&Aで想定以上の高い評価を得られることも考えられます。
飲食店M&Aのデメリット
飲食店M&Aには、懸念すべきデメリットもあります。飲食店M&Aにおけるデメリットについて、以下で解説します。
価値を見極めるのが難しい
飲食店M&Aは、資産価値を見極めることが難しいです。飲食店を構成する要素は多いため、素人目ではその価値を把握してもらえない可能性もあります。交渉相手が飲食店について詳しくない場合、その価値に見合った金額での譲渡が叶わない可能性も懸念されます。
お店の価値が属人化しているケースがある
飲食店の価値が、シェフやオーナーなどに属人化しているケースでは、M&Aに影響を与える可能性があります。M&Aによって経営者やスタッフが変わってしまうと、顧客が離れることもあります。そういった結果を懸念して、飲食店M&Aに慎重になる企業・個人も存在します。
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飲食店M&Aを進める際の注意点
飲食店M&Aを進める際には、注意すべきポイントがいくつかあります。以下では、飲食店M&Aにおける注意点を解説します。
複数の相手と交渉して最適な条件をみつけ出す
飲食店M&Aでは複数の相手と交渉して、最適な条件をみつけ出すことが重要です。飲食店は需要が高く参戦しやすいため、多くの譲受希望者からコンタクトがあると想定されます。慌てて契約せずに、条件交渉をして最適な形での譲渡を目指すことがポイントです。
無形資産の引き継ぎ準備も必要
飲食店M&Aにおいては、無形資産の引き継ぎ準備も必要です。例えばメニューの開発方法や接客のマニュアルなど、あらゆる情報をスムーズに引き継げるように準備することで、お店の価値が高まります。人気メニューの作り方や、フォロワー数の多い店舗のSNSアカウントなども継承し、飲食店M&Aにおける資産価値を高める工夫も重要となります。
居抜きは設備や什器をそのまま活用する方法
居抜きとは、設備や什器などをそのままに、物件を借りる・貸す方法を指します。あくまで貸し借りの契約であるため、M&Aのように会社を引き継げるわけではありません。そのため事業そのものを譲渡したい場合には、飲食店M&Aを計画する必要があります。
また、M&Aでは従業員やメニューの作成方法といった無形資産も継承できますが、居抜きでの譲渡では従業員をそのまま確保できないという違いもあります。
飲食店M&Aの成約事例
飲食店M&Aは、すでに多くの事例が公開されています。以下では、飲食店M&Aの参考になる具体例を紹介します。
株式会社ゼンショーホールディングスの事例
株式会社ゼンショーホールディングスは、アメリカのお持ち帰り寿司チェーンの「アドバンスド・フレッシュ・コンセプツ」を、飲食店M&Aによって完全子会社化しました。宅配サービスが発展しているアメリカを舞台に、海外での事業展開・成長を目指すとしています。このような海外企業を取り込んだ飲食店M&Aも、今後増える可能性があるでしょう。
株式会社オレンジフードコートの事例
株式会社オレンジフードコートは、「ドムドムハンバーガー」などの事業の一部を、レンブラントホールディングスに譲渡しました。事業再生につなげるために、43店舗中の22店舗、ほか6店舗をフランチャイズとして譲渡しています。チェーン店を展開している企業が、事業の一部を飲食店M&Aで譲渡する事例も多いです。
株式会社木曾路の事例
株式会社木曾路は焼肉店チェーンの大将軍を、M&Aで完全子会社化しました。コロナ禍でも付加価値の高い店舗運営を実現し、話題になった事例です。飲食業界はコロナ禍後に再び需要が高まっていくと予想されるため、先を見据えたM&Aが増える可能性もあります。
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飲食業界M&Aのまとめ
飲食店の譲渡・譲受をする飲食店M&Aは、近年注目度を高めているM&A方式です。飲食店の需要はコロナによって低迷したものの、コロナ禍後には回復傾向に転じています。今後は新規で飲食業を始めたいと考える企業・個人が、飲食店M&Aを積極的に実施するケースも考えられるでしょう。この機会に飲食店M&Aの特徴やメリットを確認し、事業継承や譲渡を計画してみてはいかがでしょうか。
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著者
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宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人
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