吸収合併契約書で取引関係は承継される?作り方・ひな形も解説

吸収合併の契約書を締結することで、消滅会社の既存の取引関係の契約は、すべて存続会社に承継されます。本記事では、例外的に契約を締結し直することが必要なケースや、吸収合併契約書の作成方法・記載事項・ひな型を説明します。

吸収合併契約書とは

吸収合併するには、存続会社と消滅会社の間で、合併契約を締結しなければなりません(会社法748条)。その作成方法や記載事項は後述します。

契約前後の手続

合併契約を締結するには、取締役会設置会社の場合は取締役会の決議、取締役会非設置会社では取締役の過半数の決定を経て、代表取締役(または代表執行役)が締結します。その上で、原則として株主総会の承認(特別決議)を得て、吸収合併が実行されます。

合併前の取引契約は承継される

消滅会社が合併より前に締結した既存の取引契約は、吸収合併しても存続会社に承継されます。これを包括承継と言います。原則として、すべての権利義務が存続会社に承継されますので、法的には既存契約の契約を締結し直したり、変更のための覚書を交わす必要はありません。

合併によって消滅会社の社名が存続会社の社名に変わりますので、消滅会社の取引先にとっては、契約相手が変わったように見えるでしょう。しかしながら、こちらも、消滅会社との契約の巻き直し等の特段の手続は必要ありません。

合併後に契約の再締結が必要になる場合

吸収合併により権利義務のすべてが存続会社に承継されるとはいえ、実務上、以下の点には注意が必要です。

銀行口座名義が変わる

吸収合併によっても、銀行口座の名義まで自動的に変更されるわけではありません。そのため、取引先等に迷惑を掛けないよう、合併後、なるべく早めに消滅会社の銀行口座について、以下の対応が必要となります。

  • 消滅会社の取引銀行に対して、口座名義の変更を依頼する
  • 消滅会社の預金残高を存続会社に送金し、銀行口座を解約する

COC条項の存在

いわゆるCOC(チェンジ・オブ・コントロール)条項とは、消滅会社の支配権が変更された場合に、消滅会社の取引先から一方的に契約を解除できる条項です。具体的には、消滅会社と取引先との契約のなかに、消滅会社の主要株主や代表者が変わる場合には、その取引先に対して、事前または事後に、通知または承諾が必要である、とする条項が含まれていることがあります。例えば、商業ビルのテナント(消滅会社)と貸主との賃貸借契約などに多く見られる条項です。

このCOC条項が消滅会社の既存契約に含まれている場合には、吸収合併後に、存続会社が消滅会社の取引先との契約を締結し直す必要が生じることがあります。

吸収合併契約書の作成方法

以下では、吸収合併契約書の作成方法について解説します。

吸収合併契約書のタイトル

会社法で特別な定めがないため、「吸収合併契約書」や「合併契約書」といった表記が用いられることが一般的です。

吸収合併契約書の前文

契約を締結する存続会社と消滅会社の社名を記載し、存続会社を「甲」とし、消滅会社を「乙」として表記することが一般的です。

契約内容

以下の内容を含むことが推奨されます。法定記載事項と任意記載事項の詳細は、後述します。

  • 吸収合併の形式
  • 吸収合併効力発生日
  • 財産の管理や引継ぎ
  • 従業員の処遇や引継ぎ
  • 契約内容の変更や解除
  • 吸収合併契約書に定めのない取り決め

吸収合併契約書の締結に関する事項

契約書には、契約書の作成数や保管場所、日付や両社の捺印や署名を記載することが求められます。

吸収合併契約に添付する書類

吸収合併契約書は、吸収合併登記申請の際に提出する必要があります。申請の際には、以下のような書類を添付することが一般的です。

  • 収入印紙(契約書1枚につき4万円)
  • 株式会社合併による変更登記申請書

収入印紙については、吸収合併契約書の枚数が増えるごとに4万円の費用が発生しますが、原本が1枚あれば他の書類は写しで構わないため、印紙代は1枚分に抑えることができます。ただし、存続会社と消滅会社がグループ企業でない場合、両社が原本を保有しておいた方が良いこともあるため、その際は2枚分の印紙代がかかることに注意が必要です。

最後に、合併効力発生後に法務局に登記申請書を提出する必要があります。申請書提出時は、補助書類も必要となるため予め準備しておくことが大切です。

合併契約書の記載事項

吸収合併契約書への記載事項について、必ず記載しなければならない法定記載事項と、記載するか当事者が決めて良い任意記載事項に分けて、概略を紹介します。

法定記載事項

吸収合併契約書には、会社法の第749条で法定記載事項が定められており、法定記載事項を適切に記載できていない場合、契約書は法的に無効とされるため、注意が必要です。

存続会社と消滅会社の商号・住所

吸収合併契約書には、に従い、存続会社および消滅会社それぞれの会社名と住所を記載する必要があります(会社法第749条)。

消滅会社に対する合併対価の取り決め

吸収合併契約書への記載事項として合併条件に関する記載は欠かせません。合併条件とは、特に「消滅会社への合併対価」を意味します。具体的には以下の事項を記載します。

  • 資本金または準備金の額
  • 株式の種類・数・算定方法
  • 社債の種類・合計額・算定方法
  • 新株予約権の内容・数・算定方法
  • 新株予約件権付社債の内容・数・算定方法
  • 上記以外の財産の内容・数(金額)・算定方法

同じグループ内での組織再編で消滅会社が100%子会社である場合や、消滅会社が債務超過であるケースの合併対価は、対価の交付が一切ない「無対価合併」も存在します。

吸収合併契約の効力発生日の取り決め

吸収合併契約書には、合併契約の効力発生日と合併契約書の承認のために必要な株式総会の開催期日を記載する必要があります。

任意記載事項

吸収合併契約書には法定記載事項以外にも、当事者間で合意した事項を任意で記載することができます。これらの記載事項は任意的記載事項と呼ばれます。任意的記載事項の一例は以下の通りです。

  • 存続会社の定款変更に関する事項
  • 新規に選任される、存続会社の取締役・その他役員についての事項
  • 吸収合併契約の承認に関する事項
  • 効力発生日までの増資・減資・新株発行などに関する事項
  • 効力発生日の変更に関する事項
  • 人事に関する事項
  • 消滅会社の財産承継に関する事項

任意的記載事項を記載する際は、吸収合併のルールに違反していないか注意が必要です。

吸収合併契約書の雛型

吸収合併契約書は、会社法によって定められた法定記載事項を適切に記載することで効力を発揮します。契約書作成時は、記載例やひな型を参照することで、記入漏れや記載ミスを防ぐことができます。以下に吸収合併契約書のひな型を紹介しますので、契約書作成時の参考にしてください。

吸収合併契約書の雛型
吸収合併契約書のひな形

吸収合併契約書のまとめ

吸収合併契約書が有効となるためには、法令で定められた記載事項を適切に明記することが重要です。記載例・ひな型を利用することで記載漏れを防ぐことが可能ですが、記載例・ひな型に掲載されている記載事項以外にも、任意で記載すべき項目が存在しますので、専門家のサポートを受けて進めることが、後日のトラブル回避のためにも望ましいでしょう。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、中小企業M&Aに特化した経験実績が豊富なM&Aアドバイザーが多数在籍しております。みつき税理士法人と連携することにより、税務面や法律面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、成功するM&A仲介で実績のある、みつきコンサルティングに是非ご相談ください。 

著者

西尾崇
西尾崇事業法人第三部長
宅食事業を共同経営者として立ち上げ、CFOとして従事。みつきコンサルティングでは、会計・法務・労務の知見を活かし、業界を問わず、事業承継型・救済型・カーブアウト・MBO等、様々なニーズに即した多数の支援実績を誇る。
監修:みつき税理士法人

【無料】資料をダウンロードする

M&Aを成功させるための重要ポイント

M&Aを成功させるための
重要ポイント

M&Aの事例20選

M&Aの事例20選

事業承継の方法とは

事業承継の方法とは

【無料】企業譲渡のご相談 
簡単30秒!最適なお相手をご提案

貴社名*
お名前*
電話番号*
メールアドレス*
所在地*
ご相談内容(任意)

個人情報の取扱規程をご確認の上、「送信する」ボタンを押してください。

買収ニーズのご登録はこちら >

その他のお問い合わせはこちら >