自己株式の消却・処分とは|メリット・株価への影響・手続・仕訳は?

企業経営者や株主にとって、自己株式の活用は重要な経営戦略の一つとなります。本記事では、自己株式の消却・処分を中心に、それぞれの目的とメリット、制限・規制を解説します。また、各取引における会計処理についても説明します。

自己株式とは

自己株式とは、企業が発行する株式のうち、自らが取得している株式のことを指します。他の呼び方としては「金庫株」とも言われております。

旧商法では自社株式の取得は原則禁止となっておりましたが、2001年の法改正により取得制限が緩和され、2001年10月から自己株式の活用が原則として解禁されました。制限は大幅に緩和され、財源による分配可能額の範囲内であれば、株数の制限なく自己株式を保有することが可能となりました。

自己株式取得のポイント

本項では自己株式の取得について説明していきます。取得することの目的や取得時の注意点についてポイントを押さえましょう。

自己株式の取得とは

自社の発行した株式を株主から買い戻す行為のことを指します。上場企業の場合には市場から流通している株式を取得することが出来ますが、未上場企業の場合は個人株主から買い取る必要があります。

取得のメリット

企業が自己株式を取得するメリットについて、説明していきます。

株価の維持や向上を図るため

自己株式の取得は、それが公正価値で行われる限りは、株価に対して中立です。しかながら、上場会社の場合、自社株買いは経営陣が現在の株価を割安と考えているシグナルになるため、株価が上昇することがあります。

配当性向の改善

保有株式数の減少により、株式数あたりの利益が増加することで、配当性向を向上させることができます。

組織再編の円滑化

自己株式を、株式交換や株式交付、吸収合併などのM&Aの際の対価として用いることができます。

敵対的買収対策

敵対的買収を仕掛けられた際に自己株式を取得することで、株価の上昇に繋がりますので、敵対企業の取得コストも増加します。また、取得した自己株式を他社へ譲渡することで敵対的買収者の所有割合を下げることが可能になります。

事業承継

事業承継をする際に後継者が少数の株式を取得した後、自己株式を取得することで、結果として過半数以上の議決権を獲得できます。また、相続税の支払いの際に、自己株式を取得することで資金の確保も可能です。そのため、自己株式の取得は親族だけではなく第三者への承継にも非常に効果的です。

取得における制限

自己株式を取得する際の制限は、財源規制と取得手続になります。

財源規制

会社が自己株式を取得する際は、取得日時点での分配可能額を超えることはできません。これが財源規制の基本的な考え方です。分配可能額は剰余金を基準に計算され、一定の項目を加減算して決定されます。そのため、会社は剰余金を大幅に上回る自己株式の取得はできません。

取得手続

自己株式を取得する際の手続きは、株式を譲渡する相手によって大きく異なります。

不特定の株主から取得する場合

不特定の株主から自己株式を取得する場合、株主平等の原則に反する可能性は低いため、手続は比較的簡単です。株主総会での普通決議による承認があれば取得が可能となります。

特定の株主から取得する場合

特定の株主から自己株式を取得する場合は、買取価格によっては株主平等の原則に違反する可能性が高まります。そのため、特定の株主だけでなく、他の株主にも投下資本を回収する機会を与える必要があります。これを売主追加請求権と呼びます。

自己株式消却のポイント

本項では取得した自己株式の消却について、目的やメリット、制限などについて解説していきますので、皆様の経営判断の参考にしてください。

自己株式の消却とは

自己株式の消却とは、取得した株式を消滅させ、発行済み株式数を減らす行為です。取得しただけでは金庫株として会社に残りますが、消却をすることで発行済株式数を減らすことが出来ます。株数が減少することで、株価の上昇が起こる可能性があります。また、消却を行う際には取締役会設置会社では取締役会の承認が必要になるなど注意点もあります。

消却のメリット

自己株式の消却を行うメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

発行済み株式数の適正化

自社株を消却することによって発行済株式総数を減らし、適正な水準にします。また、発行済み株式数が減ることで配当の総額も低下するため、配当コストの削減にも繋がります。

株価の向上(理論的には株価への影響はない)

保有する自己株式を消却しても、本質的な企業価値には何ら影響はありません。ただし、発行済株式数が減ることで、上場企業の場合は、一株当たりの指標(利益、純資産)や株式市場での需給が改善し、株価が上昇する可能性はあります。

消却における制限

自己株式の消却においても、法令による制限があります。消却の際に注意すべき制限は下記になります。

取締役会決議が必要

自己株式の消却には取締役会決議が必要となります。

上場企業の制限

上場企業は、自己株式の消却に関して厳格なルールが設けられており、消却数や手続きに注意が必要です。

市場への影響を考慮

市場への影響を考慮し、適切なタイミングや規模で行う必要があります。

自己株式処分のポイント

本項では自己株式の処分について、説明していきます。消却と同じようなイメージを持たれている方も多いですが、実際の意味合いは似て非なるものです。処分の基本的な情報や目的、制限について解説しますので、消却との違いについて理解を深めましょう。

自己株式の処分とは

自己株式の処分とは、会社が保有している自己株式の第三者への売却や、寄付、株式交換、併合などの企業再編のために利用したりすることを言います。消却は株を消滅させる行為のため、発行済み株式数が減少しますが、処分は会社が持っている自己株式を処分するために第三者に渡すという行為になりますので、発行済み株式数が減ることはありません。

消却と処分は、似た雰囲気を感じる言葉ですが、消却=消滅であり、処分=譲渡になります。具体的な処分方法としては、公開市場での売却や、特定の株主に対する譲渡、従業員持株会への供給、M&A実行時の対価などがあります。

処分のメリット

自己株式の処分のメリットは主に以下になります。

M&Aの原資として活用

M&A実行時の対価や株式交換など事業再編を行う際の対価として用意しておきます。自己株式の処分は、消却と違い、金銭的な対価がありますので、企業の事業再編や資金調達のために利用されます。そのため、取得時の価格が非常に需要になりますので、株価が割安なタイミングで取得することが望ましいです。

資金調達

自己株式の売却により、資金調達が可能です。

ストックオプション

役員や従業員に対するストックオプションとして活用することで、帰属意識を高め企業の成長を促します。

処分における制限

自己株式の処分においても、法令による制限が存在します。処分の際に注意すべき制限は以下になります。

新株発行手続

自己株式の処分は、新株発行と共に実行する必要があります。資金の払い込みを受けて、新株を発行する代わりに自己株式を処分します。

株主総会・取締役会決議が必要

会社が自己株式を処分する際には、原則として株主総会決議によって、処分する株式数や株式の払込金額などについて決定する必要があります。また、上場会社や定款で取締役会に権限移譲している非上場会社の場合には、取締役会決議によって決定する必要があります。

会計処理

自己株式の取引において、適切な会計処理が必要となります。以下では取得、消却、処分それぞれの会計処理について説明します。

取得時の仕訳

自己株式の取得を行った際には、純資産の部の勘定科目である「自己株式」で処理します。ただし、無償で取得した場合には仕訳の必要はなく、自己株式数の増加だけ行います。

自己株式を現金1,000,000円で取得した場合の仕訳
借方貸方
勘定科目金額勘定科目金額
自己株式1,000,000円現金1,000,000円
自己株式を現金1,000,000円で取得した場合の仕訳

期末に保有する自己株式は、貸借対照表の「純資産の部」の「株主資本」の末尾に「▲自己株式」として控除する形式で表示します。

消却時の仕訳

自己株式を消却した際には、「自己株式消却損」の勘定科目で処理します。自己株式消却損は、「その他資本剰余金」をマイナスします。

1,000,000円で取得した自己株式を消却した場合の仕訳
借方貸方
勘定科目金額勘定科目金額
自己株式消却損
(その他資本剰余金)
1,000,000円自己株式1,000,000円
1,000,000円で取得した自己株式を消却した場合の仕訳

処分時の仕訳

自己株式を売却処分した場合は、「自己株式処分差益」または「自己株式処分差損」の勘定科目で処理します。処分差益は「その他資本剰余金」にプラスし、処分差損は「その他資本剰余金」をマイナスします。

1,000,000円で取得した自己株式を1,500,000円で処分した場合の仕訳
借方貸方
勘定科目金額勘定科目金額
現金1,500,000円自己株式
自己株式処分差益
(その他資本剰余金)
1,000,000円
500,000円
1,000,000円で取得した自己株式を1,500,000円で処分した場合の仕訳
1,000,000円で取得した自己株式を500,00円で処分した場合の仕訳
借方貸方
勘定科目金額勘定科目金額
現金500,000円自己株式1,000,000円
自己株式処分差損
(その他資本剰余金)
500,000円
1,000,000円で取得した自己株式を500,00円で処分した場合の仕訳

その他資本剰余金がマイナスになったときの会計処理

上記の自己株式の消却や処分の結果、年度末において貸借対照表の「その他資本剰余金」がマイナスになることがありえます。その場合は、「その他資本剰余金」をゼロに復元し、その分だけ「その他利益剰余金(繰越利益剰余金)」から減額します。

取得・消却・処分における付随費用

自己株式の取得、消却、処分に関する付随費用は、損益計算書の営業外費用に計上します。

自己株式の取得・消却・処分のまとめ

自己株式の活用法は、株主への配当目的での取得や株式市場での売買による資金調達、企業再編に伴う株式交換、従業員へのストックオプションの付与など多岐に渡り、自社の状況に合わせて活用することで、企業価値の向上や資本効率の最適化に重要な役割を果たします。各手法を選定する際には、企業の経営状況や市場環境、財務目標等を鑑み、メリットとデメリットを比較検討することが重要です。また、会計処理や税務処理についても十分に理解し、適切に実施することが求められますので、実行する際は専門家に相談することが望ましいです。

みつきコンサルティングは、税理士法人グループのM&A仲介会社として15年以上の業歴があり、資本政策にも精通したM&Aアドバイザーが多数在籍しております。  みつき税理士法人と連携することにより、税務面のサポートもワンストップで対応可能ですので、M&Aをご検討の際は、みつきコンサルティングにぜひご相談ください。

著者

伊丹 宏久
伊丹 宏久事業法人第二部長
ヘルスケア分野に関わる経営支援会社を経て、みつきコンサルティングでは事業計画の策定、モニタリング支援事業に従事。運営するファンドでは、投資先の経営戦略の策定、組織改革等をハンズオンにて担当。東南アジアなど海外での業務経験から、クロスボーダー案件に関しても知見を有する。
監修:みつき税理士法人

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